アメリカにみる「今までの教育、これからの教育」
時代が変化し、価値観が変化するに従って、教育の方向性も様々と変化してきました。しかし、教育は子供たちが大人になる時に結果がでるという、未来予測的な要素も必要になるため、教育の方向性を決めるには、アメリカでも様々な議論が繰り広げられてきました。
教育の分野における基本的な問いのひとつに、「いかなる知識が最も価値あるものか?」のアメリカの問いの変化を追って、これから向かう先をみていきたいと思います。
◇教育の機能が競争へシフトした時代
数十年前、グローバル化時代における国際競争力の発想が表明される中で、新自由主義の遂行を余儀なくされていました。
これは、自由市場こそが効率性を高め、サービスの質を高める最善の方法であるという価値観です。アメリカの権力者は、自由市場を維持しようと規制緩和する一方で、公共のサービスの提供という政府の介入は、市場の妨げになるとみなされるようになりました。
このことで、学校は労働者階級の生徒の社会的不平等に立ち向かうことではなく、人的資本を育成し、国際競争力を高める場として重視されるようになりました。
この流れは、「何の知識が最も価値があるのか」から、「誰の知識が最も価値があるか」という価値観を生み出し、社会を成果主義の形態へと変容させていきました、
◇個々の競争力を高めるという価値観
国際競争力を達成するためには、全ての国民個々の競争力を高めなければならず、そのために多様な人々の可能性を開拓するため、国家は多様な形態の教育を提供することになります。
ここで、国家は単一的な強制的押し付け教育ではなく、多様な分野を自発的に行動して切り開けるよう、学校教育を通して行われるようになりました。
◇今日の「新自由主義的資本主義」の危機
新しい世界の変り目は、3つの独立したプロセスが、偶発的に同時に始まったことで、形成されてきました。
その3つとは、
①情報革命
②資本主義と国家主義の両陣営での経済危機とその後の再構成
③文化、社会運動(例えば、リバータリアニズム、人権、フェミニズム、環境保全主義など)
で、それぞれに優位な社会構造が生まれました。
また、脱工業化の中で「知識」と「情報」が経済に影響力を持つ、知識社会が経済に影響力を持ってきました。
教育のゴールが、経済に依存している社会において、教育が経済の動向の必要に応じて変化していきます。
この流れは、大学の理念が、社会経済に役立つ知識を強調し、科学的で技術的な科目を特権化する「知識工場化」へと進むこととなります。
STEM教育もこの流れから重視されてきました。
◇これから向かう先は?
アメリカでは、ブロックチェーンなど技術が進化することで、近い将来にはGAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)の時代が終わるとも言われています。
中央集権的な巨大企業の時代から、個々が繋がり協力しあい与えあう社会の時代へと、変化することが予測されています。
個々がテクノロジーを駆使して、個々が創造を膨らませて、協力し合うビジネスが生まれてくる時代となります。これは、今までの社会が一変することも予測されています。
これは、今までの社会システムが壊滅して無くなるのではなく、新たに生まれたシステムが加えられ、バージョンアップされているイメージの方が近いかもしれません。
また、ビジネス界では、ギブアンドテイクでいうとテイカーより、誰かに何かを与えるギバーが重要視されてきています。
企業は社会に何かを与え、テイカーという利益を巨大企業が搾取するタイプから、ギバーという与え協力し合うビジネスの場の方へ、優秀な人材が移動していきつつあります。
その流れから、共同体、共感、個々のアイデンティティ、品格、知恵、繋がりなど、人文主義的な教育学が重要視されてきています。
最近の、STEM教育にArtが加えられた、STEAM教育への変化も、その流れのひとつかもしれません。
新たな科学技術を創造するためのArtではなく、想像力を育むための分野として加えられました。相手の気持ちになる創造性が重視されはじめています。
他国の歴史的テーマの演劇を計画するときに、他国の文化を調べ知ることで、相手の気持ちを理解する授業や、他文化に没頭することで、異文化を熟知したりという、人文主義的な流れが形成されつつあります。
変化が激しく、将来のどのような価値観が重視されるのか、予測し難い時代です。
それでも、アメリカの教育は、将来に向かって、今も着実に変化しています。
【引用、参考文献】
著:P.カロギアナキス、K.G.カラス、C.C.ヴォルフター、T-H.ジィァン
監訳:天童睦子
「教育の危機 現代の教育問題をグローバルに問い直す」
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